「ボールが引っかかったり、抜けたりする」
「長い距離は大丈夫だけど、近いと投げ方が分からなくなる」
このような症状があるのであれば、イップスかもしれません。
僕もこれまでイップスで悩む人を多く見てきました。
実をいうと、社会人やプロレベルの選手でもイップスになります。
そして、それをきっかけに競技人生を終えてしまうケースもよく耳にします。
今回は、解剖学や運動生理学に精通し自らも高いパフォーマンスを実現しているトレーナーである二神が、イップスの原因とその改善方法に迫ります。
イップスの原因は?
イップスの原因を考えるとき、何か一つの「答え」があるわけではありません。
原因とされる要素はさまざまです。
起きている現象自体は運動力学的に見れば「運動連鎖が悪い」などと表現することが出来ますが
「じゃあ、運動連鎖が上手くいっていない原因は何なの?」
と言われると、原因はメンタルやフィジカルなどの要素が複雑に絡みあったものとも言えます。
私の経験から見ると、メンタルもしくはフィジカルの問題はそれぞれがきっかけとして作用し、ここから悪循環が起こってイップスの慢性化に至っているように感じています。
フィジカルが原因として起こる場合
フィジカルの状態不良がイップスの原因となっているケースです。
フィジカルというとパワー的なイメージをされるかも知れませんが、スポーツでは筋力、柔軟性などを含めた総合的なものが「フィジカル」だとも言えます。
そのことを踏まえると、以下のような流れで送球難が起こると考えられます。
例その1
体幹の動きが悪くなることにより、末端(腕)を意識的に振ろうとする意識が強くなり力みからコントロールが乱れる
例その2
体幹の筋力(腹横筋や内外腹斜筋など)が弱く、体重移動→回転運動時に不安定化が起きてコントロールが乱れる
このほか、ケガや、成長期の急激な身体変化などもフィジカルの状態不良になりえます。
メンタルが原因として起こる場合
例えば、嫌なことがあると、誰でも何かしらマイナスの反応が起きます。
そんな中でも、すぐに切り替えられる人もいれば、いつまでも引きずってしまう人もいますよね。
これはメンタルの強さ、という話だけでなく、脳の反応にも個体差があることが要因となります。
日本人は不安遺伝子(セロトニントランスポーターSS型と呼ばれる)の保有割合が多い人が80%を越えると言われます。
不安を感じること自体は異常なことではありません。
ただし、過度な反応が起きてしまうと、野球のように複雑な身体操作を必要とする競技ではマイナスに働いてしまうことも。
実際に、近年発表されたイップスに関する研究「Modulation of sensorimotor cortical oscillations in athletes with yips」によると…イップス持ちの選手では
・事象関連脱同期と呼ばれる脳波が増強し動作を強くイメージしてしまう傾向
・不必要な筋肉の力が抜けないといった現象
などが観測されています。
大事な場面で暴投をしてしまうなどの体験が、トラウマとして残り、脳が過度に反応してしまうと考えられますね。
イップスへの対処法
イップスを治したいのであれば、原因と思われる要素を一つ一つ潰していかなければなりません。
方法は選手によって異なりますが、今回はある社会人野球選手へ行ったアプローチを紹介します。
外野手 20代のケース
・肘の怪我持ち
・送球難あり(すっぽ抜ける、叩きつける)
まずは怪我へのアプローチ
この選手は、関節ねずみ+内側側副靱帯損傷などによる肘痛で、塁間距離すら投げられないところから始まりました。
体幹の柔軟性、可動域不足が故障の大元の原因でしたので、主に胸郭の動きを出すストレッチを実施してもらったところ1ヶ月ほどで投球時の痛みが大幅に緩和。
70mほどの距離を投げられるまで回復しています。
送球難へのアプローチ
ところが、痛みなく投げられるようにはなったものの、今度はコントロールがめちゃくちゃに。
痛みはほとんど無いんだけど、暴投8割。
みたいな状態になっていました。
原因は、体幹筋が弱いことが考えられます。
特に腹横筋が全く機能していなかったので、腰腹部が安定せずフォームが乱れている状態です。
(身体の一部の動きを止めて末端を走らせる感覚もない)
そこで、今度は体幹トレーニングを取り入れ、使えていない体幹筋の活性化を行いました。
同時に、キャッチボールではアンダースローやカーブを投げることにより腕を走らせる感覚をインプットしていきます。
結果としては、イップスの症状は大幅に改善し、遠投は100mを超えるように。
長い間肘痛で感覚を忘れてしまっていたせいか時間は掛かりましたが、身体面の課題を解消したことでパフォーマンスアップにも繋がりました。
そのほかにやったこと
栄養指導
意外と忘れがちですが、栄養管理も大切です。
なぜなら、脳内での神経伝達物質生合成にはアミノ酸を原料としたビタミンB群や鉄、マグネシウム、銅など、多くのミネラルが必要だからです。
栄養を疎かにすると、頑張りが無駄になります。
実際、うつ病などの疾患でも栄養失調が原因であったりしますからね。
自分が適切な栄養摂取をできているかのチェックも行いましょう。
まとめ
イップスに関しては様々な研究があり、毎年のように論文が出ます。
注意しなければならないのは、絶対視されがちな医学の分野でも正しいと断言できないということ。
ということは「これをやっておけばOK」は無いわけです。
・身体の状態はどうなのか?
・どのような動作イメージを持ってるのか?
・実動作とイメージとのズレが起きていないか?
このように様々な要素を観察して、改善策を打っていくことになります。
大事なことは、私のような専門知識をもったトレーナーに見てもらい、客観的な意見をもらうこと。
自分では出来ているつもりでも、実は出来ていなかった。
このような気づきを得るだけでも前進します。
二神幹アスリート研究所では、一人一人の悩みに寄り添ったメニューを提供していますので、気軽にご相談ください。
本当の意味で上達したいのなら
野球の指導をする際は技術論ばかりに目がいってしまいがちですが、それだと本質的な動作改善やパフォーマンスアップには繋がりません。
いわゆるセンスのいい選手は、身体操作が優れています。
彼らが野球だけじゃなく、そのほかの競技をやらせても上手くこなせるようになるのは、そもそも身体が整っているからです。
もし、今あなたが野球が上達せず悩んでいるのであれば、優先順位を見直してみる必要があるのかもしれません。
二神幹アスリート研究所では、野球選手のパフォーマンスアップのお手伝いをしています。
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